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前橋地方裁判所高崎支部 昭和44年(ワ)181号 判決 1970年1月19日

理由

一、昭和四四年五月一五日原告が訴外会社より本件物件を譲受ける契約が為されたことは争いない。そこで原告が右譲渡を受けるに至つた事情について考えてみる。

《証拠》を総合すると次の事実が認められる。すなわち、訴外会社は群馬県安中市においてベントナイトの採掘を目的としてその準備をしていたところ、昭和四三年末頃から資金難に陥り、昭和四四年四月二一日以降同年五月中旬迄計金六〇〇万円を原告から借受けたので、その所有の土地、建物を原告に譲渡してその決済をしたが、そのほかにも同年五月中に計金三、五一五、〇〇〇円を借受けたので、その担保として本件物件を原告に譲渡し、債務不履行の場合原告において任意に右物件を売却して、その売得金で右貸金債権の弁済に充当できることを約定し、且つ同時に、その後は原告において訴外会社の事業の管理運営を担当する旨を特約し、その頃原告は代理人として内村孝俊を現地に派遣し、ボーリングや従業員への給料の支払、訴外会社に対する他の債権者への支払等を担当させていたことなどが認められる。

二、右認定の事実によれば、訴外会社は真実本件物件を原告に譲渡したことが認められるのであり、被告の虚偽表示であるとの主張は採用できない。

三、次に被告が訴外会社に対する原告主張の債務名義に基き本件物件に強制執行をしたこと及び訴外会社より原告に対する本件物件の所有権移転が譲渡担保であることは争いないところ、被告は、譲渡担保権者は優先弁済権を有するに過ぎない旨主張し、原告は之を争うのでこの点について検討する。

前認定の事実のほか前掲証拠によれば、本件物件はベントナイトの採掘を目的としてその準備を行なつていた訴外会社の企業設備の一部であつて、原告は譲渡担保としてその所有権を取得した後、之を自ら管理稼動させて収益を挙げ、之によつて自己の債権の満足を得ようと企図し、右譲渡担保契約に際して爾後訴外会社の運営を引受ける旨を特約したことが認められるが、かような場合、譲渡担保権者は先ず目的物件の運転により収益を挙げ、之を債権に充当する権能を有するものであるから、終局的には担保目的物を処分してその代金により弁済を受ける権利を有すること勿論であるが、その時期や方法の選択は、譲渡担保権者の任意の判断に委ねられるべきものといわねばならない。蓋し他の債権者が為す目的物件に対する個別的な強制執行は、担保目的物を清算価格を以て強制的に売却し、よつて譲渡担保権者に対し不満足な弁済を強要するのみならず、爾後の収益の手段を失わせることとなり、譲渡担保権者の利益を不当に侵害する結果を生じる惧れがあるからである。

しかも前掲証拠によれば、本件物件の価額は原告の訴外会社に対する債権額に比して少額であり、譲渡担保権者たる原告に優先されることによりその強制執行の続行が差押債権者たる被告にとつて無意義となることは明らかであるので、被告が譲渡担保権者たる原告の第三者異議の訴を阻止し得たとしても格別の利益なしといわねばならない。

このように本件において、譲渡担保権者たる原告が優先弁済権を有するに過ぎないとすることは、不当に譲渡担保権者の利益を害するのみならず、差押債権者たる被告にとつても無意義であるから、被告の前記主張は排斥を免れない。

四、そうすると、原告により被告に対し本件物件についての前記強制執行の排除を求める本訴請求は正当として之を認容すべきである。

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